化学防護に関する規定(JIS T 8115・JIS T 8116・JIS T 8117)

概要
 化学物質(酸、アルカリ、有機溶剤など)を取り扱う作業に従事する場合、皮膚等への障害を引き起こす可能性があります。その際に着用する防護服、防護手袋、防護長靴についての規格(性能要求)を紹介します。
目的
 令和4年厚生労働省令第91号(2024年4月1日施行)により、皮膚障害を起こすことが明らかな有害化学物質を取り扱う際には防護服、防護手袋、防護長靴などの保護具を使用することが義務付けられました。
 当センターでは、防護具に使用される材料を用いて、防護服材料の耐透過性(JIS T 8030)、防護服材料の加圧下における耐液体浸透性(JIS T 8031)などを評価しています。
 
化学防護服(JIS T 8115)
概要

化学防護服の種類

タイプ タイトル化学防護服の種類
タイプ1 気密服
タイプ2 陽圧服
タイプ3 液体防護用密閉服
タイプ4 スプレー防護用密閉服
タイプ5 浮遊固体粉じん防護用密閉服
タイプ6 ミスト防護用密閉服
   

化学防護服に用いられる材料の性能要求

要求事項 化学防護服の種類
タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4 タイプ5※1 タイプ6
耐透過性 ※2
液体浸透圧力 ※2
耐液体浸透性
液体反発性
引張強さ
引裂強さ
突刺強さ
破裂強さ
摩耗強さ
屈曲強さ

※1:性能要求はJIS T 8124-1によるが、試験方法はJIS T 8115と同様
※2:耐透過性試験または液体浸透圧力試験のいずれかで評価

   

化学防護服の縫合部の性能要求

要求事項 化学防護服の種類
タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4 タイプ5※3 タイプ6
縫合部強さ

※3:性能要求はJIS T 8124-1によるが、試験方法はJIS T 8115と同様

試験方法
  1. 耐透過性
    • 試験は、 JIS T 8030 A法 により実施します。
    • 耐透過性試験における「標準透過速度毎分0.1µg/cm2を使用した平均破過時間」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ1~3は、「平均破過時間」がクラス3以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ4について、液体浸透圧力を実施せず耐透過性を実施した場合は、「平均破過時間」がクラス1以上が必要です。
     

    透過速度に基づく破過時間による分類

    クラス 平均破過時間
    6 480分を超え
    5 240分を超え 480分以下
    4 120分を超え 240分以下
    3 60分を超え 120分以下
    2 30分を超え 60分以下
    1 10分を超え 30分以下

    JIS T 8115 : 2015 表4より(表は当センター作成)

     
  2. 液体浸透圧力
    • 試験は、 JIS T 8031 手順D により実施します。

    • 液体浸透圧力試験における「平均浸透圧力」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ4について、耐透過性を実施せず液体浸透圧力を実施した場合は、「平均浸透圧力」がクラス3以上が必要です。
     

    浸透圧力の分類

    クラス 平均浸透圧力
    6 35kPaを超え
    5 28kPaを超え 35kPa以下
    4 21kPaを超え 28kPa以下
    3 14kPaを超え 21kPa以下
    2 7kPaを超え 14kPa以下
    1 3.5kPaを超え 7kPa以下

    JIS T 8115 : 2015 表6より(表は当センター作成)

     
  3. 耐液体浸透性
    • 試験は、 JIS T 8033 により実施します。

    • 耐液体浸透性試験における「平均浸透指数」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ6は、「平均浸透指数」がクラス3以上が必要です。
     

    耐液体浸透性の分類

    クラス 平均浸透指数
    3 1%未満
    2 1%以上5%未満
    1 5%以上10%未満

    JIS T 8115 : 2015 表8より(表は当センター作成)

     
  4. 液体反発性
    • 試験は、 JIS T 8033 により実施します。

    • 液体反発性試験における「平均反発指数」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ6は、「平均反発指数」がクラス3以上が必要です。
     

    耐液体浸透性の分類

    クラス 平均反発指数
    3 95%を超え
    2 90%を超え95%以下
    1 80%を超え90%以下

    JIS T 8115 : 2015 表9より(表は当センター作成)

     
  5. 引張強さ
    • 試験は、 JIS L 1096 附属書J により実施します。

    • 引張強さの最低強度の方向における「平均引張強さ」にて分類します。
    • 限定使用の化学防護服のタイプ1、2は、「平均引張強さ」がクラス3以上が必要です。
    • 再使用可の化学防護服のタイプ1、2は、「平均引張強さ」がクラス4以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3、4、6は、「平均引張強さ」がクラス1以上が必要です。
     

    引張強さの分類

    クラス 平均引張強さ
    6 1000Nを超え
    5 500Nを超え1000N以下
    4 250Nを超え500N以下
    3 100Nを超え250N以下
    2 60Nを超え100N以下
    1 30Nを超え60N以下

    JIS T 8115 : 2015 表10より(表は当センター作成)

     
  6. 引裂強さ
    • 試験は、 JIS L 1913 により実施します。

    • 引裂強さのたて、よこ方向それぞれについて、「平均引裂強さ」を分類します。
    • 化学防護服のタイプ1、2は、「平均引裂強さ」がクラス3以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3~6は、「平均引裂強さ」がクラス1以上が必要です。
     

    引裂強さの分類

    クラス 平均引裂強さ
    6 150Nを超え
    5 100Nを超え150N以下
    4 60Nを超え100N以下
    3 40Nを超え60N以下
    2 20Nを超え40N以下
    1 10Nを超え20N以下

    JIS T 8115 : 2015 表11より(表は当センター作成)

     
  7. 突刺強さ
    • 試験は、 JIS T 8051 により実施します。

    • 異なる素材で層状の試験片の場合、主防護層が最初に損傷した値を「平均突刺強さ」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ1、2は、「平均突刺強さ」がクラス2以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3~6は、「平均突刺強さ」がクラス1以上が必要です。
     

    突刺強さの分類

    クラス 平均突刺強さ
    6 250Nを超え
    5 150Nを超え250N以下
    4 100Nを超え150N以下
    3 50Nを超え100N以下
    2 10Nを超え50N以下
    1 5Nを超え10N以下

    JIS T 8115 : 2015 表12より(表は当センター作成)

     
  8. 破裂強さ
    • 試験は、 JIS L 1096 附属書M により実施します。

    • 異なる素材で層状の試験片の場合、主防護層が最初に損傷した値を「平均破裂強さ」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ1~4、6は、「平均破裂強さ」がクラス1以上が必要です。
     

    破裂強さの分類

    クラス 平均破裂強さ(試験面積50cm2
    6 850kPaを超え
    5 640kPaを超え850kPa以下
    4 320kPaを超え640kPa以下
    3 160kPaを超え320kPa以下
    2 80kPaを超え160kPa以下
    1 40kPaを超え80kPa以下

    JIS T 8115 : 2015 表13より(表は当センター作成)

     
  9. 摩耗強さ
    • 試験は、 JIS T 8115 により実施します。

    • 異なる素材で層状の試験片の場合、主防護層が最初に損傷した値を「定められた損傷に達する摩耗回数」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ1、2は、「定められた損傷に達する摩耗回数」がクラス3以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3~6は、「定められた損傷に達する摩耗回数」がクラス1以上が必要です。
     

    摩耗強さの分類

    クラス 定められた損傷に達する摩耗回数
    6 2000回を超え
    5 1500回を超え2000回以下
    4 1000回を超え1500回以下
    3 500回を超え1000回以下
    2 100回を超え500回以下
    1 10回を超え100回以下

    JIS T 8115 : 2015 表15より(表は当センター作成)

     
  10. 屈曲強さ
    • 試験は、 JIS T 8115 により実施します。

    • 異なる素材で層状の試験片の場合、主防護層が最初に損傷した値を「定められた損傷に達する屈曲回数」にて分類します。
    • 限定使用の化学防護服のタイプ1、2は、「定められた損傷に達する屈曲回数」がクラス1以上が必要です。
    • 再使用可の化学防護服のタイプ1、2は、「定められた損傷に達する屈曲回数」がクラス4以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3~6は、「定められた損傷に達する屈曲回数」がクラス1以上が必要です。
     

    屈曲強さの分類

    クラス 定められた損傷に達する屈曲回数
    6 100000回を超え
    5 40000回を超え100000回以下
    4 15000回を超え40000回以下
    3 5000回を超え15000回以下
    2 2500回を超え5000回以下
    1 1000回を超え2500回以下

    JIS T 8115 : 2015 表16より(表は当センター作成)

     
  11. 縫合部強さ
    • 試験は、 JIS T 8115 により実施します。
    • 複数の縫合部から最も弱い値を「平均縫合部強さ」にて分類します。
    • 化学防護服のタイプ1、2は、「平均縫合部強さ」がクラス5以上が必要です。
    • 化学防護服のタイプ3~6は、「平均縫合部強さ」がクラス1以上が必要です。
     

    縫合部強さの分類

    クラス 縫合部強さ
    6 500Nを超え
    5 300Nを超え500N以下
    4 125Nを超え300N以下
    3 75Nを超え125N以下
    2 50Nを超え75N以下
    1 30Nを超え50N以下

    JIS T 8115 : 2015 表18より(表は当センター作成)

     
試験結果例

液体防護用密閉服(タイプ3)の例

試験項目 試験結果 クラス
耐透過性・破過点検出時間 BT0.1 アセトン

88分

3
引張強さ たて 120N 2
よこ 65N
引裂強さ たて 28.4N 2
よこ 42.1N 3
突刺強さ 9N 1
破裂強さ 47.0kPa 1
摩耗強さ 10回を超え 1以上
屈曲強さ たて 1000回を超え 1以上
よこ 1000回を超え
 

スプレー防護用密閉服(タイプ4)の例

試験項目 試験結果 クラス
液体浸透圧力 40%水酸化ナトリウム 25.7kPa 4
 

ミスト防護用密閉服(タイプ6)の例

試験項目 試験結果 クラス
浸透指数 30%硫酸 0.8% 3
10%水酸化ナトリウム 0.0% 3
n-ブタノール 1.2% 2
o-キシレン 5.6% 1
反発指数 30%硫酸 97.0% 3
10%水酸化ナトリウム 98.0% 3
n-ブタノール 91.4% 2
o-キシレン 88.2% 1
化学防護手袋(JIS T 8116)
試験方法
  1. 耐透過性
    • 試験は、 JIS T 8030 A法 により実施します。
    • 耐透過性試験で、標準透過速度0.1µg/cm2/minで測定された「平均標準破過点検出時間」にて分類します。
     

    耐透過性の分類

    クラス 平均標準破過点検出時間
    6 480分を超え
    5 240分を超え
    4 120分を超え
    3 60分を超え
    2 30分を超え
    1 10分を超え

    JIS T 8116 : 2005 表1より(表は当センター作成)

     
  2. 耐浸透性
    • 試験は、 JIS Z 4810 により実施します。

    • 耐浸透性試験を実施し、JIS Z 9015-1(計数値検査に対する抜取検査手順-第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式)の「品質許容水準(AQL)」にて分類します。
      なお当センターではJIS Z 9015-1の抜取検査について、出張検品、大量のサンプルサイズ(サンプル中のアイテム数)、AQLに対する適合・不適合に対応しておりません。詳細はご相談ください。
       
     

    耐浸透性の分類

    クラス 品質許容水準(AQL)
    4 4.0
    3 2.5
    2 1.5
    1 0.65

    JIS T 8116 : 2005 表2より(表は当センター作成)

     
化学防護長靴(JIS T 8117)
試験方法
  1. 耐透過性
    • 試験は、 JIS T 8030 A法 により実施します。
    • 試験片は、本底部、胴部、甲部の最薄部から採取、または各部位と同一の厚さの材料を用います。
    • 耐透過性試験で、標準透過速度0.1µg/cm2/minで測定された「平均標準破過点検出時間」にて分類します。
     

    耐透過性の分類

    クラス 平均標準破過点検出時間
    6 480分を超え
    5 240分を超え
    4 120分を超え
    3 60分を超え
    2 30分を超え
    1 10分を超え

    JIS T 8117 : 2005 表1より(表は当センター作成)