欧州REACH規則

    REACH規則(Regulation (EC)No 1907/2006)

    REACHとは、Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)の略称です。REACH規則は、化学物質のほとんどを対象とした登録、評価、認可、制限に関する制度で、その目的は次の通りです。

    • 人の健康および高レベルの環境保護
    • EU圏内における化学物質の自由な流通
    • EU圏内における化学業界の競争力と革新の強化
     

    REACH規則により、日本から欧州(EU圏内)に対象物質を輸出する際には、REACH規則を遵守する必要があります。ここではREACH規則の概要を説明します。

     
    REACH規則の対象物質
    1. 物質(Substances)
      化学元素および、自然状態のままの化合物または製造工程によって得られる化合物を指し、その安定性を保持するのに必要な添加物や、製造工程から生じた不純物を含みます。
    2. 調剤(Preparation)
      2つ以上の物質(Substance)からなる混合物または溶液(※合金も調剤に該当します)。
    3. 成形品(Article)
      生産時に与えられる特定な形状、表面またはデザインが、化学組成より大きく機能を決定するもの(種々の製品やその製品に使用されている部品など)。
     
    登録(Registration)
    • EU圏内で「物質そのもの」または「調剤に含まれる物質」を年間1トン以上製造または輸入する場合、製造者または輸入者はいずれも欧州化学品庁(ECHA:European Chemicals Agency)に登録を提出する必要があります。
    • EU圏内で製造者または輸入者当たりで「成形品の中の物質」を年間1トンを超える量を製造または輸入し、成形品の通常使用または予測可能な使用により成形品から物質が意図的に放出される場合は、欧州化学品庁に登録を提出する必要があります。
    • 登録には、「技術書類一式(物質、分類、有害性情報、用途など)」を欧州化学品庁に提出します。数量10トン以上の場合は、化学物質安全性報告書(有害性評価やリスク評価)も提出します。
    • 登録義務者は、EU圏内に所在する製造者、輸入者、もしくはEU圏外の製造者が指名する「唯一の代理人(EU圏内に所在)」となります。
    • 同じ化学物質を複数の製造者、輸入者で登録する場合、試験データの共有を義務付けられます。
     
    評価(Evaluation)
    • 欧州化学品庁が、登録情報の適合性の確認、試験提案の評価を行います。また必要に応じ、追加試験の実施や追加情報を要求することがあります。
    • PBT(難分解性、生物蓄積性および毒性の物質)、vPvB(極めて難分解性で高い生物蓄積性の物質)、CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)や広範囲で拡散的なばく露をもたらす用途に100トンを超える量で使用される危険性のある物質の登録は、優先的に試験提案の審査が行われます。
     
    認可(Authorisation)
    認可対象物質
    • 人の健康や環境に与える影響が非常に深刻で、その影響が不可逆的である高い懸念を有する有害な物質です。
    • 認可対象物質は、REACH規則 Annex XIV Authorization Listに収載されています。
    • 原則使用禁止となり、製造・輸入・販売・使用に当たっては用途ごとに申請して個別に認可を受けます。
    • 製造者、輸入者、川下使用者(化学物質を調剤、製造などで使用する企業、個人)は、認可対象物質の代替の可能性、代替計画が必要となります。

    認可対象物質リスト (欧州化学品庁のページに移動します)

     
    認可候補物質
    • 認可対象物質の候補となる物質として、REACH規則 Annex XIV Candidate Listに収載された物質です。
    • 認可候補物質は、極めて高い懸念のある物質として高懸念物質(SVHC:Substances of Very High Concern)または認可候補物質リスト(CLS:Candidate List of Substances)と呼ばれています。
    • 認可候補物質リストは将来認可対象物質となる可能性のある物質であり、一定要件に達する場合、届出の義務等が発生しますが、使用禁止や制限物質ではありません。
     

    REACH規則 Annex XIV 認可候補物質に収載される物質は次の通りです。

    1. CMR(Cancinogenic, Mutagenic, Toxic for Reproduction)
      欧州経済共同体理事会指令 67/548/EECにおいて発がん性、変異原性、生殖毒性の区分1または2の物質
    2. PBT(Persistent, Bioaccumulative, Toxic)
      REACH規則 Annex XIIIに規定の難分解性、生物蓄積性および毒性の物質
    3. vPvB(very Persistent and very Bioaccumulative)
      REACH規則 Annex XIIIに規定の極めて難分解性で高い生物蓄積性の物質
    4. b~c項の基準を満たさないが、a~c項と同等レベルの懸念を生じ、また内分泌かく乱性を有するか、難分解性、生物蓄積性および毒性を有するか、極めて難分解性で高い生物蓄積性を有し、人の健康または環境への深刻な影響をもたらすおそれがあるとの科学的根拠がある物質

    認可候補物質リスト (欧州化学品庁のページに移動します)

     
    制限(Restriction)
    制限物質
    • REACH規則 Annex XVIIに収載されている物質、調剤・成形品に含まれている物質です。
    • 製造、販売または使用することで、人の健康または環境への許容できないリスクがある物質です。
    • 制限の条件(繊維製品、玩具などの特定製品への制限物質の使用禁止等)に合致していない場合は、製造、販売または使用することができません。

    制限物質リスト (欧州化学品庁のページに移動します)

     

    制限対象となる物資や物質群には、Entry No.と呼ばれる識別番号が割り当てられ、Entry No.ごとに制限の内容や条件が定められています。2025年5月現在、Entry No.は79まであり、多くの制限物質が存在しますが、一例としてEntry 72を紹介します。

     
    衣料品等に使用される制限物質の例

    2018年10月にREACH規則(Regulation (EC)No 1907/2006)が改正され、衣料品等に使用される制限物質33種類がEntry 72としてAnnex XVIIに追加されました。その対象品は次の通りです。

    1. 衣料品および関連する附属品
    2. 衣料品以外の繊維製品で通常使用または予測可能な使用により、衣料品と同程度に人の肌に接触するもの
    3. 履物
     

    対象外品は次の通りです。

    1. 天然皮革、毛皮、皮(なめす前のもの)のみで作った衣料品、衣料品に関連する附属品および履物と、衣料品、衣料品に関連する附属品および履物の部品を天然皮革、毛皮、皮(なめす前のもの)で作ったもの
    2. 非繊維製ファスナーおよび非繊維製装飾用附属品
    3. 中古衣料品、中古衣料品に関連する附属品および衣料品や履物以外の繊維製品
    4. 床一面を覆うカーペット、屋内用の繊維製床敷物、ラグおよびフロアランナー
    5. 個人用保護具(Regulation (EU) 2016/425)や医療機器(Regulation (EU) 2017/745)に関する衣料品、衣料品に関連する附属品および履物
    6. 使い捨ての繊維製品
     

    消費者向けの衣料品等は、その材料に含まれる物質が限度値未満でなければ、2020年11月1日よりEU圏では販売できなくなりました。その物質および限度値などを下表に示します。

    物質名 CAS No. 限度値
    カドミウムおよびその化合物

    1mg/kg(材料から溶出する金属として)

    6価クロム化合物
    ヒ素化合物
    鉛およびその化合物
    ベンゼン 71-43-2 5mg/kg
    ベンズ[a]アントラセン 56-55-3 1mg/kg
    ベンズ[e]アセフェナントレン 205-99-2

    ベンゾ[a]ピレン; ベンゾ[def]クリセン

    50-32-8
    ベンゾ[e]ピレン 192-97-2
    ベンゾ[j]フルオランテン 205-82-3
    ベンゾ[k]フルオランテン 207-08-9
    クリセン 218-01-9
    ジベンゾ[a,h]アントラセン 53-70-3

    α, α,α,4-テトラクロロトルエン; p-クロロベンゾトリクロライド

    5216-25-1 1mg/kg

    α, α,α-トリクロロトルエン; ベンゾトリクロライド

    98-07-7

    α-クロロトルエン; ベンジルクロライド

    100-44-7
    ホルムアルデヒド 50-00-0 75mg/kg

    フタル酸ジ分岐アルキルエステル

    (炭素数6~8, 7が主成分)

    71888-89-6 1,000mg/kg
    フタル酸ビス(2-メトキシエチル) 117-82-8
    フタル酸ジイソペンチル 605-50-5
    フタル酸ジペンチル(DPP) 131-18-0
    フタル酸ジ-n-ヘキシル(DnHP) 84-75-3

    N-メチル-2-ピロリドン; 1-メチル-2-ピロリドン(NMP)

    872-50-4 3,000mg/kg
    N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC) 127-19-5

    N,N-ジメチルホルムアミド; ジメチルホルムアミド(DMF)

    68-12-2

    1,4,5,8-テトラアミノアントラキノン; C.I.ディスパースブルー1

    2475-45-8 50mg/kg

    4,4’-(4-イミノシクロヘキサ-2,5-ジエニリデンメチル)ジアニリン塩酸塩; CIベイシックレッド9

    569-61-9

    [4-{ビス(4-ジメチルアミノフェニル)メチレン}-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン]ジメチルアンモニウムクロリド; C.I. ベーシックバイオレット3(ミヒラーズケトン(EC No.202-027-5)を0.1%以上含む)

    548-62-9
    4-クロロ-o-トルイジン塩酸塩 3165-93-3 30mg/kg
    2-ナフタレンアミノ酢酸塩 553-00-4 30mg/kg
    4-メトキシ-m-フェニレンジアンモニウム硫酸塩; 2,4-ジアミノアニソール硫酸塩 39156-41-7 30mg/kg
    2,4,5-トリメチルアニリン・塩酸塩 21436-97-5 30mg/kg
    キノリン 91-22-5 50mg/kg
     

    当センターでは、REACH規則における制限物質等の分析を行っています。お客様のご要望に応じたメニューをご提案させて頂きますので、最寄りの事業所・検査所までお問い合わせください。