特定芳香族アミン類の分析

概要

 日本では従来よりホルムアルデヒド、ディルドリン、有機水銀化合物などの有害物質について規制・基準が設けられていましたが、厚生労働省は2015年4月8日「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律第2条第2項の物質を定める政令の一部を改正する政令」を公布しました(2016年4月1日から施行)。これにより、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(昭和48年法律第112号)」に規定する有害物質として、新たに、アゾ化合物※(特定芳香族アミン類を生成するもの)が指定されました。(※:ここでいうアゾ化合物とは「アゾ染料」を示します)EU諸国や中国、韓国、台湾では既に法規制されており、アジア諸国にも規制化の動きが出始めています。


試験方法

規制・基準によって試験方法は異なりますが、基本的な原理は同じです。

地域 試験規格名 備考
日本 JIS L 1940-1 一般試験法
JIS L 1940-3 4-アミノアゾベンゼン試験法
欧州 EN 14362-1 一般試験法
EN 14362-3 4-アミノアゾベンゼン試験法
国際規格 ISO 17234-1 皮革試験法
ISO 17234-2 皮革試験法
中国 GB/T 17592 一般試験法
GB/T 23344 4-アミノアゾベンゼン試験法
GB/T 19942 皮革試験法
ドイツ §64 LFGB BVL B82.02-2
§64 LFGB BVL B82.02-3 皮革試験法
§64 LFGB BVL B82.02-4
§64 LFGB BVL B82.02-9 4-アミノアゾベンゼン試験法


 

  
①サンプリング

糸、生地、製品から試料を採取し、細かく切断
します。

 

②抽出

分散染料使用の試料は、有機溶剤で染料を抽出
します。

  

③還元分解

試料または抽出染料にクエン酸緩衝液を加え
反応させます。

  

【還元分解処理の様子】

70℃で還元剤(ハイドロサルファイト)により
アゾ基を還元分解します。

  

④分離精製

水酸化ナトリウム溶液を添加し、遊離したアミ
ンを珪藻土カラムとt-ブチルメチルエーテルを
用いて抽出します。

  

⑤濃縮

50℃以下で液が1mlになるまで濃縮します。

  

⑥ 測定

抽出液又は残渣を適切な溶媒に転溶し、高速液体クロマトグラフ(写真左)やガスクロマト
グラフ-質量分析計(写真右)を用いてアミンを定量します。

補足

特定芳香族アミン類とは?

 化学構造式にアゾ基(窒素の二重結合)を持つ染料を「アゾ染料」と呼びます。

 一部のアゾ染料中のアゾ基が還元分解※されると、「芳香族アミン」という物質が生成されます。芳香族アミンの定義は、ベンゼン環にアミノ基(-NH2)が結合したものです。

 

 芳香族アミンのうち、発がん性が指摘されている芳香族アミンを「特定芳香族アミン」と呼んでいます。 一般に「特定芳香族アミン」と称されるのは、下記の24種類です。(名称は一例のため、CAS No.をご確認下さい。)人体への有害性は、種類によって異なります。

項番 CAS No. 英語名称 日本語名称
1 92-67-1

4-aminobiphenyl;

biphenyl-4-ylamine

4-アミノビフェニル;ビフェニル-4-イルアミン
2 92-87-5 benzidine ベンジジン
3 95-69-2 4-chloro-o-toluidine 4-クロロ-ο-トルイジン
4 91-59-8 2-naphthylamine 2-ナフチルアミン
5 97-56-3 ο-aminoazotoluene ο-アミノアゾトルエン
6 99-55-8

2-amino-4-nitrotoluene;

5-nitro-ο-toluidine

2-アミノ-4-ニトロトルエン;5-ニトロ-ο-トルイジン
7 106-47-8

p-chloroaniline;

4-chloroaniline

p-クロロアニリン;4-クロロアニリン
8 615-05-4

2,4-diaminoanisole;

4-methoxy-m-phenylenediamine

2,4-ジアミノアニソール;4-メトキシ-m-フェニレンジアミン
9 101-77-9 4,4'-diaminodiphenylmethane 4,4'-ジアミノジフェニルメタン
10 91-94-1 3,3'-dichlorobenzidine 3,3'-ジクロロベンジジン
11 119-90-4 3,3'-dimethoxybenzidine 3,3'-ジメトキシベンジジン
12 119-93-7 3,3'-dimethylbenzidine 3,3'-ジメチルベンジジン
13 838-88-0 3,3'-dimethyl-4,4'-diaminobiphenylmethane 4,4'-methylenedi-ο-toluidine

3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン

4,4'-メチレンジ-ο-トルイジン

14 120-71-8 p-cresidine;6-methoxy-m-toluidine p-クレシジン;6-メトキシ-m-トルイジン
15 101-14-4

4,4'-methylene-bis-

(2-chloroaniline)

4,4'-メチレン-ビス-(2-クロロアニリン)
16 101-80-4 4,4'-oxydianiline 4,4'-オキシジアニリン
17 139-65-1 4,4'-thiodianiline 4,4'-チオジアニリン
18 95-53-4 ο-toluidine ο-トルイジン
19 95-80-7

2,4-toluylenediamine;

4-methyl-m-phenylenediamine

2,4-トルイレンジアミン;4-メチル-m-フェニレンジアミン
20 137-17-7 2,4,5-trimethylaniline 2,4,5-トリメチルアニリン
21 90-04-0 ο-anisidine ο-アニシジン
22 60-09-3 4-aminoazobenzene 4-アミノアゾベンゼン
23 95-68-1 2,4-xylidine 2,4-キシリジン
24 87-62-7 2,6-xylidine 2,6-キシリジン
 

※アゾ基の還元分解とは?

 化学的には正確な表現ではありませんが、還元分解とは水素と結合することによる多重結合(ここではアゾ基の二重結合)の開裂を表します。言葉で表現すると難しく聞こえますので、一例を図で表します。

 また、図のイメージの通り、全てのアゾ色素が特定芳香族アミンになるわけではありません。


 

 

C.I.やCAS No.とは?

C.I.・・・「カラーインデックス」のことで、​色素を表しています。英国染料染色学会(The Society of Dyers and Colourists:SDC)と米国繊維化学技術・染色技術協会(The American Association of Textile Chemists and Colorists:AATCC)が共同で管理している、色素・着色剤(染料と顔料)及び関連化合物について分類したデータベース(6,000種類以上)に登録されている名称です。

  

CAS No.・・・「キャスナンバー」といい、​化学物質に付けられた固有の識別番号です。CAS(Chemical Abstract Service)は、米国化学会の一部門で、化学情報の最大にして、最も包括的なデータベースを作成しています。