ファイバーフラグメント試験(ISO 4484-3・AATCC TM212など)

概要

 マイクロプラスチックによる海洋汚染が社会問題となっています。繊維製品は、タイヤや塗料等と並び、マイクロプラスチック発生源の一つに挙げられています。繊維製品として身近な衣料品は、様々な外力により繊維が脱落したり千切られたりし、繊維の短い断片=ファイバーフラグメント(Fibre fragment)を発生させます。このファイバーフラグメントについて調べることが、繊維由来のマイクロプラスチック問題を理解することに繋がります。家庭においては、衣料品の洗濯によって排水中にファイバーフラグメントが発生しているものと想定されます。


 生地の評価方法としてはAATCC TM212などがあり、製品の評価方法としてはISO 4484-3があります。


目的
 洗濯により、衣料品等の生地や製品からファイバーフラグメントがどの程度脱落するのかを評価します。
AATCC TM212
対象製品
  • 衣料品用生地
試験方法

AATCC TM212では、生地から発生するファイバーフラグメント量を評価します。
 

  1. 生地からたて方向340㎜×よこ方向200㎜を4枚採取します。
  2. 生地端を裏側に25㎜2回折り、二重縁として4辺を縫います(最終のサイズは240㎜×100㎜)。
  3. 加速洗濯試験機の洗濯瓶(容量1200mL)に、ステンレス球50個と洗剤溶液または、水360mLを入れ、洗濯瓶を40℃で約10分間予熱します。
  4. 洗濯瓶1つに試験片を1枚入れ、4つの洗濯瓶を準備し加速洗濯試験機に装着します。
  5. 加速洗濯試験機にて、40℃、45分間運転します。
  6. 処理後、ふるいを装着した1500mL以上のビーカーに洗濯瓶の内容物を注ぎます。
  7. ふるい上で試験片を洗瓶にて洗浄し、表面の繊維を洗い流します。また洗濯瓶も同様に洗浄します。
  8. フィルターを装着した真空ろ過装置にてビーカーの内容物をろ過します。
  9. ろ過後、計量皿にフィルターを置き乾燥します。乾燥は21℃、65%RH で4時間または、非空気循環オーブンで70℃、1時間のいずれかを用います。
  10. 以下の式にてファイバーフラグメント脱落量、ファイバーフラグメント脱落率の平均値を算出します。


ファイバーフラグメント脱落量

Fm,n = W2,n - W1,n

Fm,n:試験片nのファイバーフラグメント脱落量(g)

W1,n:試験前のフィルターと計量皿の質量(g)

W2,n:試験後のフィルターと計量皿の質量(g)
 

ファイバーフラグメント脱落率

Fp,n =100× (W2,n - W1,n) / S1,n

Fp,n:試験片nのファイバーフラグメント脱落率(%)

W1,n:試験前のフィルターと計量皿の質量(g)

W2,n:試験後のフィルターと計量皿の質量(g)

S1,n:試験前の試験片の質量(g)

試験結果例
試験項目 試験結果
ファイバーフラグメント脱落量 0.0024 g
ファイバーフラグメント脱落率 0.0126 %
試験方法:

AATCC TM212

洗浄オプションB

乾燥オプションA

試験結果の見方
 試験結果の目安値はありませんが、従来品などとの比較によりファイバーフラグメントの脱落性の評価が可能です。
補足

 試験試料を加速洗濯試験機にて洗浄する場合、および計量皿+フィルターを乾燥する場合は、下表のオプションを選択することができます。

オプション 処理方法
洗浄オプションA 洗剤溶液(0.25% AATCC洗剤WOB)
洗浄オプションB 水のみ
乾燥オプションA 21±2℃、65±5%RH×4時間以上
乾燥オプションB 非空気循環オーブンにて70℃×1時間以上
コラム

【欧州 Cross Industry Agreement】(https://euratex.eu/cia/)
 マイクロプラスチック(ファイバーフラグメント)問題について、科学的根拠に基づき、対策の検討や正しい情報発信をおこなうことを目的として、欧州CIAは設立されました。欧州繊維産業連盟(EURATEX)、欧州化繊協会(CIRFS)、欧州アウトドアグループ(EOG)、欧州スポーツ用品産業連盟(FESI)、国際石鹸洗剤及び清掃用品協会(AISE)の業界横断的な5団体が中心となる対策検討グループです。

 日本からは、日本繊維産業連盟、日本化学繊維協会、当センターが参画しています。
 

 繊維業界におけるマイクロプラスチック対策を議論する中で、用語の問題がありました。それは、マイクロプラスチックの原因となる繊維を、マイクロファイバー(Microfibre)と呼称される例が見受けられたことです。本来、マイクロファイバーとは、直径が極めて細い繊維を指すものです。先のような呼称が広がると、マイクロファイバー製品への誤解を招くことが懸念されます。海外でも同様に、用語の混同について問題視されてきました。

 誤認や混乱を避けるために、欧州 Cross Industry Agreementにて、用語の統一化がなされ、マイクロプラスチックの問題となる繊維をファイバーフラグメント(Fibre fragment)と呼ぶこととしました。これら用語の整理も含め、欧州CIAは、欧州の繊維業界のマイクロプラスチック問題への取組みと海洋汚染の実態などについてのリーフレットを公開しています。


参考文献

(日本繊維産業連盟では、著作権者Cross Industry Agreementの了解の下、日本語の暫定訳を掲載しています。)

Less Micro Plastic認証試験
対象製品
  • 衣料品用生地
試験方法

Less Micro Plastic認証試験では、生地から発生するファイバーフラグメント量を評価します。
 

  1. 試験片サイズ:40mm×100mm
  2. 洗濯条件:JIS L 0844 B-4号 準用
     液量;150mL
     洗剤;使用しない
     洗濯温度;50±2℃
     ステンレス鋼球;25個
     洗濯時間;30分
  3. 洗濯処理後、洗液をメンブレンフィルターでろ過し、捕集したファイバーフラグメントの重量を測定する。
  4. 3測定実施後、その平均値を試料1m2当たりの脱落量で算出する。
補足
 Less Micro Plastic認証試験方法は、伊藤忠ファッションシステム株式会社、 伊藤忠商事株式会社が特許(特開2021-183933)を取得しています。当センターは、 Less Micro Plastic Project の生地検査対応パートナーとして登録されております。
ISO 4484-3
対象製品
  • 衣料品
  • 毛布
  • ラグ
  • カーテン
試験方法

ISO 4484-3では、製品から発生するファイバーフラグメント量を評価します。
 

  1. ISO 6330に規定される基準洗濯機を用い、糸くずフィルターを取り外します。
     
    A形基準洗濯機   C形基準洗濯機

     
  2. 洗濯機の排水口のホースにフィルターバッグを装着します。
  3. 標準状態(20±2℃、65±4%RH)にした製品の質量を計測します。
  4. 製品を少なくとも2点洗濯機に投入し、製品に添付されている「家庭洗濯等取扱方法」に基づいて洗濯を1回行います。通常、洗剤は使用しませんが、使用する場合はAATCC HE標準洗剤(液体、蛍光増白剤なし)になります。
  5. 洗濯後、洗濯槽から製品を取出し空洗浄を2回行います。
    排水時、フィルターバッグで捕集している様子

     
  6. 排水後、フィルターバッグを排水ホースから取り外し、捕集したファイバーフラグメントの質量を測定します。
    捕集されたファイバーフラグメント

     
  7. 上記2~6項をさらに2回操作します(計3回)。
  8. 次の計算式で、製品1着あたりのファイバーフラグメント量と、単位重量あたりのファイバーフラグメント量を求めます。試験結果は3回操作の平均値となります。

    Cmp:製品1着あたりのファイバーフラグメント量(mg/着)
       Cmp = Cm / Sn

    Cmw:単位重量あたりのファイバーフラグメント量(mg/kg)
       Cmw = (Cm ×1000) / Mp

     Cm:捕集されたファイバーフラグメントの質量(mg)
     Sn:投入した試料数(製品の着数)
     Mp:試料の総質量 (g)
試験結果例
試験項目 試験結果
製品1着あたりのファイバーフラグメント量 74 mg/着
単位重量あたりのファイバーフラグメント量 194 mg/kg
試験方法:

ISO 4484-3

C形基準洗濯機使用

試験結果の見方
 試験結果の目安値はありませんが、従来品などとの比較によりファイバーフラグメントの脱落性の評価が可能です。