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MALDI-TOF-MSを用いたタンパク質による獣毛繊維の鑑別ーDNAに代わる獣毛繊維の鑑別ー

はじめに


カケンでは平成10年度より、顕微鏡法以外の獣毛鑑別法としてDNAによる獣毛の鑑別法を検討し知見を得てきましたが、(1)DNA数と獣毛重量の関係は一定でない、(2)DNAが検出されない試料があるなどの問題によりDNA鑑別法は顕微鏡法の代替法には至っていません。

一方、Wolfgang Altmeyerらは顕微鏡法に代わる方法としてSIAM method(MALDI-TOF質量分析による動物種の同定)を開発し、日本にも特許公開しています。SIAM methodは、MALDI-TOFMSによるタンパク質同定技術を利用しており、漂白や染色などの化学処理された獣毛であっても鑑別が可能であるとされています。

そこで本研究では、MALDI-TOFMSによるタンパク質同定方法を用いて、混合された獣毛繊維の種の判別、定量の可能性について検討することを目的としました。


概要


動物の毛の主成分はタンパク質(ケラチン)ですが、ケラチンのアミノ酸配列は動物種によって異なります。そこで、SIAM methodでは酵素消化により毛のケラチンをペプチド断片にし、MALDI-TOFMSで測定したペプチドのMSフィンガープリントからタンパク質を同定することで、動物種を同定しています。

本研究では、カシミヤ(以下Ca)とウール(以下W)の組み合わせについて、ケラチンをペプチドに断片化する際の前処理条件、種を鑑別および定量するための種特徴的MSピーク、種特徴的MSピーク相対強度の繰り返し測定精度と検出下限、種特徴的MSピーク強度の希釈の影響、未知試料の定量の可能性を検討しました。


結果


前処理条件については還元剤濃度および精製の有無が酵素消化物MSスペクトルに大きく影響することがわかりました。

履歴の異なるCa、Wの酵素消化物MSスペクトルを比較し、それぞれの種特徴的MSピーク候補を検出しました。

秤量から測定までを10回繰り返した種特徴的MSピーク相対強度の繰り返し測定精度は、測定値の変動係数が約0.4、平均値の変動係数が約0.1でした。CaとWの酵素消化物を段階的に分注して作成した検量線の検出下限はCa、W共に11%と算出されました。

種特徴的MSピーク相対強度は希釈による影響を受けないと考えられましたが、Ca特徴的MSピーク相対強度に影響があることがわかりました。

測定液を原液と5倍希釈液の2通り用意し、検量線を作成して未知試料を定量した結果、一番かたよりが小さくかつ精度よく定量がおこなえたのは、今回の実験では5倍希釈液で測定し、Ca特徴的MSピーク相対強度m/z3181/1482で定量する条件であることがわかりました。

ただし、少なく見積もった拡張不確かさは±22〜25%であり、家表法の組成表示許容範囲を充たすほどの精度はありませんでした。


まとめ


今回はカシミヤとウールの組み合わせのみですが、MALDI-TOFMSにより、定性、定量の可能性を示唆できました。測定値の信頼性(不確かさ、検出下限)を考慮すると、現状では顕微鏡法の代替法には至らないと考えます。

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